古内一絵著の『フラダン』。
読む前はフラダンスの物語と考えていました。
もちろん、フラダンスの物語には違いありません。
福島の工業高校が舞台で、そこのフラ愛好会の話です。
女子が少ない中、女子が作った愛好会に男子を募り全国高等学校フラ・タヒチアン競技大会。通称、フラガールズ甲子園を目指すのです。
その募った男子の中には、シンガポールからの帰国子女の男子がいてこのキャラクターがなんかいいのです。
最初はヤル気がない元水泳部の男子が主人公のようですが、これがまた男子の中でのリーダーとして頑張るのです。
男子のフラダンスは力強くて格好いいです。
これだけだと、高校生がフラガール甲子園を目指す物語で終わってしまうのですが違うのです。
福島という場所だからこそのいろんな思いが胸を貫きます。
福島での原発問題でいまだに住み慣れた町へ戻れずに仮設住宅で暮らす住人達が、この物語では登場します。
胸が痛みます。心苦しくなるのです。
慰問するのですが、快く受け入れてくれないのです。フラダンスなんか見たくないとの言葉が投げつけられてしまいます。
それだけではありません。
ここでは、原発問題が起きた電力会社で働く父を持つフラ愛好会に所属する男子生徒がいます。
被災者側だけではなく、事故を起こした会社の社員の側の気持ちも綴られています。
これには、考えさせられました。震災で受けた心の傷は大きいのです。
難しい問題がそこにはあります。
このことで、一人の女子生徒が心を痛めてフラダンスをやめようとしてしまいます。
フラガール甲子園どころではないと参加しないと言い始めてしまいます。
それでも、フラ愛好会の仲間は頑張るのです。
一緒に、女子生徒とフラダンスを踊ろうと頑張るのです。
これは単なるフラダンスの物語ではありません。
ラストでのフラガールズ甲子園の場面では涙しました。
まさに、オハナです。
つまり、家族のような仲間ということです。
本書に綴られている物語は、いろいろな思いが織り成した素敵な物語だと言えるのではないでしょうか。
この物語を通じて、改めて震災を考え大事なことはなんなのかと問わなくてはいけないと感じさせられました。